着物を知らない方への対応と輝かせることへの情熱を或る人の帯〆帯揚げの見立てから語る

帯〆と帯揚げ お客様のお見立て相談

春の声が届き始めると、店には新規のお客様が多く訪れてくださいます。

 

着終わった後の着物のお手入れの相談を受けたり、半衿に取り付けを頼まれたり、寸法直しなどもありますが、時期的に入卒や結婚式も多いこともあって、帯〆帯揚げなどの小色合わせに、タンスにあるものを持ってきて、見て欲しいと訪ねてこられる方も少なくありません。

 

どなたも着物初心者で、”着物のことが分からない!”と前置きして、さまざまなご相談をいただく訳ですが、着物に対する価値観が掴めないもので、その対応に気を遣うものがあります。

 

 

 

帯〆と帯揚げ

帯〆と帯揚げ

 

今日も新規のお客様が風呂敷に包んで、着物といくつかの帯、そしてタンスにある帯〆帯揚げをお持ちになられて、着物にどの帯が合うかを見て欲しいと、娘さんを引き連れて店を尋ねてくださいました。

 

そして、「半衿も取り付けて欲しい」と、重ね衿を私に差し出すお母さん。

 

お母さんに、「それは重ね衿というもので、半衿ではありませんよ・・・。まず最初に娘さんの年齢を考えて、どの帯がふさわしいかを考えてみたいので、しばらくお待つください!」と申し上げて、お持ちになられた2本の袋帯を着物に乗せてみると、どちらも地味な装いになるものでした。

 

お母さんもそのことを承知していらっしゃって、白っぽい帯を合わせた方が装いが明るくなるかもしれませんね~

お母さんに問いかけるようにお話をさせていただくと、お母さんが合わせていた帯〆を見せられて、「この帯〆でもいい?」

 

それは着物の地色に合わせた水色で、コーディネートをしてみると、より一層地味な装いになるものでした。

それも昔のもので色焼けしていて、お勧めできるものではありません。

 

そんことをお話すると、他の帯〆を出してきて、「この色ではだめですか?」と、いろいろ相談されるのですが、若さを引き出そうとしてピンクの色を合わせると、コーディネートが壊れてしまうし、適品があるとは思いにくいものがありましてね~

 

その間にもお母さんは、娘が着物を着たがらないので、あまりお金を使いたくないようなことを呟く声が耳に届きます。

どのように対応させていただいたらいいものなのかを迷うものがありましたが、娘さんが輝かさるためにも私の見解を申し上げなくてはなりません。

 

そこでお客様に、「買い物をしてくださいとは言わないので、店の商品でコーディネートしたものを見てください。」と、

店の商品で帯〆帯揚げ重ね衿を合わせものを見ていただくと、「若くなった~」と、その違いを認めてくださいました。

そして、刺繍の半衿を加えたらどうなるのかも見届けていただくことに・・・

 

お母様はお金を使わすに事を済ませたいと考えていたみたいですが、納得できるものがあったのでしょう。

重ね衿と帯〆を新しくして、帯揚げはご自身のものを使うことを決めてくださいました。

 

そしてそれに合わせる長襦袢を拝見させていただくと、お持ちになられていたのは礼装用の白の長襦袢でした。

一週間後に着るとのことだったもので、この長襦袢で対応するしかありませんが、お母さんには、色の付いた長襦袢がふさわしいこともお伝えさせていただいた次第です。

 

 

このようなご相談は内容は違えでも日常茶飯事で、或る方は、持ち込まれた着物と帯に、私が帯〆帯揚げでコーディネートしたものをタブレットで写真を撮って他店の店へ向かわれる方もいらっしゃって、新規で着物を知らない方への対応の難しさを感じさせれております。

 

 

私たちがどれだけ呟いても、和装市場に響かない現実に儚さを覚えますが、勇気を出して店を尋ねていただけるだけでも喜ばなくてはなりません。

 

そして、その一つ一つが、呉服店を頼りにできないと思わせる対応であってはならないと思っています。

その判断はお客様がされることで、着物を知らない人であっても、輝かさることに神経を使いことが私の役割だと思っています。

 

こうして、いろんなことを呑み込んで一日が過ぎて行きますが、着物の振興に近道がないだけに、粘り強さと、一人でも多くの喜びを勝ち取る努力を重ねていかないと業界の発展は望めないのでしょう。

 

気の遠くなる話ですが、そのことを自覚しながらも地域との距離感を縮め、そして着物ファンになっていただくために何が足りないかをもっと考えなくてはなりません。

 

厳しい現実を突き付けられておりますが、着物はそんな業種になってしまったのかもしれませんね。

 

それではこれにて・・・
お休みなさい。

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