今日はお客様からご相談をいただいた紬帯の染め替えのことで記事を書いてみたいと思います。
先般、銀座で開かれた着物の展示会にて、或るお客様が若い時に用意した紬八寸帯をお持ちになられて、年齢に合った色で染め替えができないかとの相談がありました。
その帯がこの映像にある紬帯です。
拝見させていただくなり、懐かしい記憶がよみがえりました。
40年近く前のことだと思いますが、一世風靡した〇〇さんというメーカーの紬帯で、亡き妻も色合いや柄も違いますが同じ種類の帯を持っています。
とても軽くて締めやすい帯で、大島紬や紬アンサンブルの上に合わせてお勧めしていた帯です。
お客様もこの帯の価値はよくご存じで、しかし年齢からしても赤すぎて使い辛いこともあって染め替えのご相談をいただいたものです。
これまでに様々な染め替えをしてまいりましたが、紬の帯の染め替えは初めてだったもので、私を信頼していただけるものであれば、この帯を持ち帰り染屋さんと相談して、ご返事を入れたい旨の話をすると、快く受け入れてくださいましてね~
そして今日、染屋さんから回答がありました。
早速お客様のお電話を入れて説明をさせていただいたのですが、全国にこちら様と同じ思いでタンスにしまい込んでいる方が多いのではないかと思うところがあり、状諾を得て、ここに紹介させていただくこととしました。
染屋さんの見解は次の通りです。
染め替えは可能かと考えているが、お太鼓と腹の模様の裏側には織るときの糸が通っていて、この個所の縮みが考えられ、大切な柄の部分の帯巾が狭くなる恐れがある。
裏地に渡る糸を切って染める方法もあるが、単衣帯だけに問題が生じることもあり、その選択肢は難しいのではないか?
いずれにしても染めてみないと分からないところがあって、危険性が伴うことを承知していただけるのであれば受け賜わりますが・・・
そして、染め替える色の生地見本として、6色の色の提案と加工費の提示がありました。
金額的には仕立替えも含め一万数千円の加工費です。
そのことをお客様にお伝えすると、染め替えをしない状態でいても使うことがないので、試しに染めてくださいとの返事をいただくことができました。
ついては、色見本を送り、色の選択をしていただいてから帯の染め替えに入りたいと思っていますが、予期せぬことが起きることもあるだけに、細心の注意を払ってベストを尽くしてみたいと思っているところです。
このことを例に取っても、私たち業界人にできることってまだまだあるのではないでしょうか?
お客様は想像も付かないことを言ってくることもありますが、一つ一つ真摯に向き合うことで学ぶことがいっぱいあり、例え意に沿わない結果に終わったとしても、その経験は質の高い店に変えていくものだと思います。
昨日のことですが、或る仕入れ先の担当者が店に来ていて、廃業を考えている店が多いことをボヤいていました。
その話を聞いていた店のスタッフは、担当者が帰った後に「きもの難民が増えるでしょうね~」と、なにげなく呟いた言葉に、深い意味と重みを感じさせられるものがありました。
私たちを取り巻く環境は甘いものではありません。
仮にも今以上にきもの難民が増えるとしたら、残された私たちの責任は重いものがあります。
それだけに、相談しやすい扉を開けておく努力が求められている気がします。
簡単なことではありませんが、新しい風が吹くことを信じて頑張らなくてはいけませんね。
それではこれにて・・・
お休みなさい。